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「自社のAIを兵器や監視に使わせない」。その約束を守った会社は、国の安全を脅かすリスクになるのでしょうか。米国の控訴裁判所は、2対1で「なりうる」と答えました。1カ月前の地裁での勝利から一転した今回の判決の中身と、日本への影響をまとめます。
2026年9月25日、ワシントンD.C.にある連邦控訴裁判所(D.C.巡回区控訴裁判所)が判決を出しました。
Anthropic(アンソロピック)は、国防総省から受けた「サプライチェーンリスク」指定の取り消しを求めていました。裁判所はこの訴えを退けています。
サプライチェーンリスクとは、「この会社の製品を使うと国の安全が脅かされる」という公式のレッテルです。付けられると、政府との取引から事実上締め出されます。
3人の判事の意見は割れました。
この結果、Claudeは米軍で使えないままです。国防総省と取引する防衛関連の請負企業も、その仕事でClaudeを使うことができません。
ピート・ヘグセス国防長官は、判決が国防総省の立場を「完全に正当化した」とコメントしました。
Anthropicは2025年7月、国防総省と約2億ドル(約300億円)の契約を結んでいました。軍の機密ネットワークにAIを組み込んだ、最初のAI企業でもあります。
ところが2026年に入り、国防総省は「あらゆる合法的な目的」で使えるよう条件の変更を求めました。
Anthropicが拒んだのは、次の2つへの利用です。
交渉は決裂し、ヘグセス長官は2026年3月3日、Anthropicをサプライチェーンリスクに指定しました。
実はこのとき、根拠となる法律が2つ使われたと報じられています。1つは国防総省のシステムだけを対象にする法律です。もう1つは2018年に作られた、連邦政府の調達全体にかかわる法律です。
後者の指定に不服があるときは、D.C.巡回区控訴裁判所に直接申し立てる仕組みになっています。今回の判決は、この2018年の法律にもとづく指定についての判断です。
Anthropicは「2018年の法律は、外国の敵による妨害工作を想定したもの。正直に利用ルールを示す自社は対象外だ」と主張しました。
多数意見はこれを退けました。報道によると、判決は「法律上の定義は、Anthropicが何をするかで決まり、なぜするかでは決まらない」という趣旨を述べています。
つまり、動機が安全への善意であっても関係ありません。AIに組み込まれた制限が軍の要求を何度も止めた以上、それは運用を妨げる要因だと判断されたのです。
Anthropicは「国防総省は導入前にモデルをテストできるし、承認済みの版を使い続ければよい」とも訴えました。
これに対して判決は、「国防総省が琥珀に閉じ込められたままのAIシステムを使えないのは明らかだ」と述べています。更新を断り続けなければ安全を保てない製品は、選択肢にならないという理屈です。
Anthropicは、AIの軍事利用を公に批判したことへの報復だとも主張していました。
多数意見は、争いの中心は契約条件だったと判断しました。そのうえで「私たちの共和国では、競合するリスクをどう比べるかを決めるのは大統領と長官だ」という趣旨を記しています。
ヘンダーソン判事は、法律の読み方そのものに反対しました。
この法律が想定しているのは、敵対国などによる妨害工作やデータの抜き取りです。判事は、契約企業が正直に、前もって示した利用制限を守ることまで、リスクに含めるべきではないと指摘しました。
多数意見の読み方では、長官の要求をのまない企業は誰でも「安全保障上の脅威」にされうる。反対意見には、そんな懸念がにじんでいます。
ややこしいのは、別の裁判所がすでに逆の判断を出している点です。
8月下旬、カリフォルニア州の連邦地裁でリタ・リン判事が、国防総省向けのもう1つの指定を違法と判断しました。「憲法修正第1条(言論の自由)に反する報復」という厳しい評価でした。
Anthropicの広報担当者は今回、「判決には敬意を持って反対する。別の連邦裁判所は、政府による並行した指定をすでに違法としている」とコメントしています。
2つの裁判所は、それぞれ違う法律にもとづく指定を審理しました。結論が割れても、どちらかが間違っているとは限りません。ただ、企業から見れば「勝ったのに使えない」状態が続くことになります。
同じ要求に、ほかのAI企業はどう対応したのでしょうか。
OpenAIは、Anthropicが排除された直後の2026年2月28日に国防総省との合意を発表しました。その後、米国民の国内監視への利用を禁じる条文を契約に加えています。
5月には、国防総省がSpaceX、OpenAI、Google、NVIDIA、Microsoft、AWS、Oracle、Reflection AIの8社との合意を明らかにしました。
対応主な企業結果
国防総省と合意Google、Microsoft、AWSなど国防総省と契約
条件を契約書に明記して合意OpenAI国防総省と契約
拒否して裁判で争うAnthropic米軍から排除が続く
今回の判決で、AIの利用ルールを「モデルそのもの」に組み込む方式は、政府調達で不利になりうると示されました。「あらゆる合法的な利用」を認めるかどうかが、今後の軍事AI契約の入場券になるとの見方も出ています。
まず安心材料から。今回の判決は、米軍と防衛関連の仕事に限った話です。日本の個人や一般企業がClaudeを使う分には、何も変わりません。
一方で、米国の政府案件に関わる企業は注意が必要です。
ある日本の精密部品メーカーを想像してみてください。米軍向け装備の部品を、米国の防衛企業に納めています。社内の見積もり作成や技術文書の翻訳にClaudeを使っていたとします。取引先から「国防総省向けの仕事でClaudeを使っていないか」と確認が届けば、業務フローの見直しが必要になります。
次に、米国政府向けシステムの二次請けをしている日本のIT企業です。開発チームがAIコーディング支援ツールとしてClaudeを使っていた場合、案件の途中でツールを切り替えることになるかもしれません。慣れた道具を失えば、開発のペースにも響きます。
最後に、これからAIを選ぶ国内のスタートアップです。将来、官公庁や海外の政府系案件をねらうなら、1社のAIに依存しない設計が保険になります。複数のモデルを切り替えられる仕組みを最初から用意しておく、という考え方です。
日本でも自衛隊や省庁でAI活用が進んでいます。「政府はどのAIを、どんな条件で使うべきか」という議論で、今回の判決は参照される前例になりそうです。
A. ありません。今回の指定は米国防総省とその請負企業の業務が対象です。日本の個人や一般企業の利用には影響しません。
A. 勝ったのは、国防総省のシステムを対象とする別の法律にもとづく指定についてです。今回の控訴裁は、2018年の法律にもとづく指定を審理し、国防総省の判断を支持しました。
A. 同社は「さらなる審理を含むあらゆる選択肢を検討している」としています。控訴裁の判事全員による再審理(大法廷審理)や、連邦最高裁への上告が考えられます。
A. 多数意見は、動機ではなく結果を見ました。AIに組み込まれた制限が軍の要求を止める以上、運用上のリスクになると判断したのです。反対意見は、この読み方は法律の目的を広げすぎだと批判しています。
A. あります。軍と契約するなら、利用制限をモデルに組み込むより、契約書で条件を決める方式が主流になると見られています。
米国の政府案件に関わっている方は、自社と取引先でどのAIを何に使っているか、今のうちに棚卸ししておきましょう。
前回の地裁判決については「国防総省のAI排除は違法|Anthropic勝訴」で詳しく解説しています。
この記事は AI Friends からのクロスポストです。