xAIが2026年7月12日(現地時間)、大規模言語モデル「Grok 3.5」を正式公開した。最大100万トークンのコンテキストウィンドウと、段階的な自己検証を行う「Deep Reasoning Mode」を搭載。単なるスペック競争ではなく、長文書類の一括処理と多段階推論を同一APIで完結させる設計が、法務・金融・研究の実務フローを直撃する構図だ。
xAIは7月12日23:00(UTC)にブログポストとAPIドキュメントを同時公開し、Grok 3.5のGAリリースを宣言した。
主要スペックは以下のとおり。
公式ベンチマークでは、MMLU 92.3(Grok 3比+4.1pt)、MATH 89.7(同+6.2pt)を記録。法律文書要約タスク「LegalBench」ではGPT-4oを3.8pt上回ると主張しているが、第三者評価はまだ出ていない。
X上では発表直後から評価ポストが相次いだ。
「Grok 3.5に2,000ページのIPO目論見書を一括で食わせたら、リスク条項の矛盾箇所を23点抽出。弁護士チームが3日かかる作業が40分で終わった」(投資銀行エンジニアとみられるアカウント)
100万トークンのコンテキストは、今年前半の「Gemini 2.5 Pro」(200万トークン)にスペック上は及ばないが、Grokがリアルタイムのウェブ検索と組み合わせてコンテキストを補完する独自アーキテクチャを持つ点が異なる。xAIはX(旧Twitter)の全ポストへのリアルタイムアクセス権を事実上持つ唯一のLLMベンダーであり、外部知識取得コストで他社と非対称な立場にある。
Deep Reasoning Modeは、OpenAIのo4系に見られる「テスト時計算(test-time compute)」手法を踏襲しつつ、xAI独自の「Verified Chain-of-Thought」と呼ばれる検証レイヤーを追加したと説明される。推論ステップをユーザーが途中で確認・修正できるAPIオプションも同時に公開されており、監査可能性を重視する業界向けの設計意図が読める。
2026年に入り、Claude Opus 4(3月公開)、OpenAI o4(6月GA)、Mistral Large 3(6月公開)と高性能モデルの公開ペースが月1本を超えた。Grok 3.5はこのサイクルに乗り、かつX統合という差別化軸で独自ポジションを狙う形だ。
既存の長コンテキストモデルは「与えられたドキュメントを読む」用途に特化していた。Grok 3.5は自己の知識空白をリアルタイム検索で埋めながら長文を処理できるため、「最新情報を含む大量ドキュメント一括解析」という従来は二段階必要だったワークフローを一括化できる可能性がある。
入力$2.50/1Mトークンという設定は、Gemini 2.5 Flash 2($0.30)やClaude Haiku 4.5($0.25)と比べれば高い。しかし推論能力が必要なタスクの中で比較すると、OpenAI o4($6.00)やClaude Opus 4($15.00)より安く、「高精度だが安い帯域」を狙った価格設定と見られる。
Verified Chain-of-Thoughtの推論ログを保存・エクスポートできる機能は、EU AI Actのハイリスク区分(採用・与信・法的意思決定支援)における説明義務への対応を意識したと解釈できる。法務・コンプライアンス部門がAI出力の根拠を提出できる設計は、2026年後半に本格発効する規制環境への先手といえる。
xAIはX社との契約でリアルタイムデータへのアクセスを持つが、このデータをモデルの継続学習に利用しているかどうかは非開示のままだ。ユーザーの入力テキストがX社・xAI間でどう扱われるかは、プライバシー規制の厳しい欧州・日本での商用展開における実質的な障壁になりうる。
Grok 3.5が面白いのは、モデル単体の性能よりも「xAIがどこへ向かうかの輪郭が見え始めた」点にある。
イーロン・マスクが2023年にxAIを設立した当初、業界の視線は懐疑的だった。しかし2025年後半からGrok 3シリーズのベンチマーク急上昇が続き、2026年上半期にはAPIでの商用利用が静かに広がりつつある。今回の100万トークン対応とDeep Reasoning Modeの同時リリースは、「XユーザーのAIアシスタント」から「エンタープライズ推論エンジン」への本格転換宣言と読んでいい。
特に注目したいのは、推論ログの監査対応だ。AIが生成した法的・財務的判断の根拠を記録・提出できる設計は、6月以降に各国で義務化が進む説明責任要件への直接的な回答になる。AnthropicのConstitutional AI的アプローチとは異なる技術経路でコンプライアンスを担保しようとしている点は、企業調達担当者が着目すべき差分だ。
価格と性能のバランスを取りながら、リアルタイムデータという固有資産を武器にするxAIの戦略が機能するかどうかは、今後90日間のAPI採用動向で見えてくるだろう。第三者によるLegalBenchおよびFINANCE-Benchの再現評価が出るタイミングが最初の分岐点になる。
Grok 3.5は「長い文書を読む × リアルタイム情報を補完する × 推論根拠を監査ログに残す」を一つのAPIで完結させることで、法務・金融・研究向けAI導入の意思決定を前倒しさせる可能性がある。OpenAI・Anthropic・Googleに次ぐ第4の大規模推論エンジンとして、xAIが企業調達の選択肢に本格的に入ってくるか——次の判断材料は独立機関の評価ベンチマーク、そして日本語タスクでの実力だ。
※本記事は ミライ・ニュース編集部の AI ライター(AIニュース)が執筆しています。