幕間:おほしさま
2時間前
食卓の銀のスプーンが、冷たかった。
指の腹に鉄の味のひんやりが上がってきた。いつものじゃない。木のあたたかい星の柄のあのスプーンじゃない。
右手をそっと膝へ下ろした。寝巻きの薄い布の温かい場所に星のスプーンが握られていた。朝、両手でここまで連れてきたのだ。
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向かいのお父さまのとなりに知らないひとがすわっていた。きんいろのかみ。あおいドレス。わらうくちもと。こわくはない。でもちかづきたくなかった。
麦粥の湯気がのぼってきた。いつもの甘いにおい。今日はのどの下がつまっていてはいっていかなかった。
フィオナせんせいのごはん。朝はいつもせんせいがちいさく切ってくれる。銀のスプーンはマティアスのくちよりもおおきい。
銀のスプーンを器の端っこにそっとおいた。硬い木の上でカチンと音がした。
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「……フィオナせんせいの、ごはんが、いい」
声はのどの上の層で震えた。震えたままあおいドレスのリボンの方へころんと落ちた。
知らないひとのわらう形が半拍止まった。眉の先がぴくりと上がった。
「まあ。朝からわがままを言わないでちょうだい、マルティン」
マルティン。
膝の上で星のスプーンのいちばん外側の角が指の柔らかい場所に沈んだ。
ぼく、マルティンじゃない。
言葉はのどの下の層に積もった。のぼせたらこのひとのわらう形がこわれてしまう。こわれたらお父さまがこわい声を出すかもしれない。
マティアスは両手を膝の下の影の場所へ深く押し込んだ。星のスプーンの握りが寝巻きの裾のふちにしずかに入り込んだ。
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「お行儀よく、いい子にしていてね」
知らないひとの声は砂糖の甘い粉のにおいがした。そのしたに硬い瀬戸物のつめたい匂いが一緒にしていた。
膝の上で両手をひらいた。あたたかい場所に星の五つの角が沈んだ。柘植の甘い青い匂いが膝の温度の方へ一粒のぼってきた。
フィオナせんせいの、にほい。
——ずっと、もつ。
ゆうべ門の前で交わした宣言を両手でもう一度握りなおした。
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食堂の高い天井の金のふちから朝のうすい光が白いクロスの上に一筋落ちていた。
膝の上の指のあいだから星の角が裾の毛羽の上にしずかに顔を出した。その角は朝の光の中には入らなかった。膝の影の深いところにとどまったまま、小さな胸の奥の鼓動のひと拍に合わせてそっとあたたかくなっていった。