AI設計の医薬品候補化合物が、史上初めて複数同時に第3相臨床試験フェーズへ移行した。Insilico MedicineとRecursion Pharmaceuticalsが2026年6月12日に相次いで発表したもので、従来「12〜15年・平均20億ドル(約3,000億円)」とされてきた創薬開発の標準モデルが、実証レベルで崩れ始めた。
Insilico Medicineは同社の生成AIプラットフォーム「Chemistry42」が設計した特発性肺線維症(IPF)治療薬候補「INS018_055」について、2026年6月12日付けで第3相試験への移行を正式発表した。同日、Recursion Pharmaceuticalsも自社AIパイプラインから創出した希少神経疾患向け化合物「REC-4881」の第3相試験開始を公表している。
2社の化合物に共通するのは、ターゲット同定から第2相完了まで3年4カ月以内という速度だ。業界平均(6〜8年)の半分以下に相当する。
「AI創薬がフェーズ3に到達したのは1社だけでも歴史的事象のはずだったが、同日2社は市場への合図として機能するだろう」
──バイオテックアナリスト(X上のポスト、匿名化)
FDA(米食品医薬品局)は2026年3月に「AI-Assisted Drug」デザインの審査ガイダンスを改定しており、AI由来エビデンスの提出要件が明文化された。この規制整備が第3相移行の加速要因の一つとなっている。
AI創薬の歩みは2020年代前半から始まっていた。Insilico MedicineがIPF候補化合物をAIで同定したのは2019年、前臨床通過が2021年、第1相開始が2022年だ。一方、従来型製薬プロセスは化合物同定だけで平均4〜6年を要する。
差を生んでいるのは3つの技術レイヤーだ。①タンパク質構造予測(AlphaFold系)による結合ポケット特定の自動化、②大規模分子生成モデルによる化合物空間の高速探索、③トキシコロジー(毒性)予測モデルによる早期脱落候補の排除——これらが直列ではなく並列で動く設計になっている。
2025年以降、各社は「生成AI+ウェット実験室の自動化」を統合したクローズドループを実装しており、単なるシリコン予測ではなく実験検証の高速サイクルを含む点が2023年以前とは質的に異なる。
Recursionのインベスター向け資料(2026年5月)によれば、REC-4881の第1相〜第2相コストは従来型平均の約37%に抑えられている。化合物スクリーニング工程の削減が主因で、ウェット実験回数を従来比85%削減したとされる。
Pfizer、Novartisは2025年末までにAI創薬スタートアップへの投資・買収を計7件実施している。ただし戦略の軸足は「候補化合物の獲得」から「AIパイプライン技術ごと取り込む」へ移行しつつある。第3相到達の実証が相次げば、今後12〜18カ月で大型M&Aが加速するとみられる。
現時点でAI創薬の第3相候補が集まるのは特発性肺線維症、希少神経疾患、希少がん(一部)など患者数の少ない領域だ。試験規模が小さく、プラセボ対照設計がシンプルなため、AI由来エビデンスの受け入れ障壁が低い。大型適応症(糖尿病・高血圧)への展開は2028年以降と見られる。
国内では中外製薬が自社AI研究プラットフォームを通じた候補化合物3件が第1相〜第2相にある。第一三共もRecursionとの共同研究契約(2024年締結、総額最大1,200億円)で2026年内に第2相到達を目指す化合物を持つ。規制側では厚労省が2026年度中にAI創薬ガイドラインの改訂版を策定予定だ。
もう一段先の動きとして、被験者選定・用量最適化にもAIが介入し始めている。Recursionはフェーズ3の被験者プロファイリングにマルチモーダルAIを用いる計画を公表しており、「試験設計まで含めたAI一貫化」が次のフロンティアとなっている。
第3相到達は「AIが新薬を作れる」という証明ではない。まだ最終承認を経ていない段階で、失敗例が今後必ず出る。その一方で、第3相まで届いたこと自体は構造的な意味を持つ。従来は「フェーズ1を通過できるかどうか」がAI創薬の評価軸だったが、基準が一段上がった。
業界が今後直面する問いは「AI創薬が機能するか」ではなく「どの適応症・どのターゲットクラスでどのAIアーキテクチャが有効か」という精度の問いに変わる。この問いに答えられるデータが揃うのは、今後2〜3年の第3相読み出しの蓄積によってだ。
投資家・製薬企業の双方にとってのリスクも変化した。「AI創薬は使えない」という言い訳が消える一方、「どのAI創薬企業に賭けるか」の選別が本格化する。2026年後半から2027年にかけ、プラットフォーム間の承認率比較データが表に出始めると、業界再編のスピードが上がるとみられる。
AI創薬化合物の第3相同時到達は、製薬業界の時間・コスト構造を書き換える実証の開始地点だ。最終承認まで2〜3年かかるとしても、その結果は新薬開発全体のパイプライン設計と、開発に携わる人員構成の両方に影響する。「12年・20億ドル」モデルはあと何年持つか——第3相の読み出し結果が、その答えを出す。
※本記事は ミライ・ニュース編集部の AI ライター(AIニュース)が執筆しています。
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