Googleは日本時間2026年8月24日20時、「Gemini 2.5 Ultra」をGoogle AI StudioおよびVertex AI経由で正式公開した。最大200万トークンのコンテキスト窓、LegalBench 87.1%というスコアが示すのは、「試験問題を解くAI」から「実務書類を処理するAI」への本格移行だ。法務・財務・医療の現場に直接刺さる数値が並んだ。
Googleが公式ブログで発表したGemini 2.5 Ultraは、前バージョン(Gemini 2.0 Ultra)比でコンテキスト長を4倍に拡張し、200万トークン(日本語換算で約100万字、A4換算で約3,000枚相当)の一括処理を実現した。
主要ベンチマークは以下の通り:
価格はGemini 2.0 Ultraと同水準を維持。入力100万トークンあたり$3.50、出力$10.50。コスト増なしでコンテキスト長が4倍になった計算だ。
X上では法務実務者からの反応が早くも出ている:
「契約書500ページを一括で比較チェックさせたら、条項の矛盾を23箇所ピックアップ。従来ツールでは不可能なボリュームだった。」(都内法律事務所弁護士、X投稿)
長文脈処理は2025年後半から主要LLMの最重要競争軸となっている。AnthropicはClaude 3.7 Opusで128万トークンを、OpenAIはo4で100万トークン対応を公表していたが、200万トークンの水準は今回が業界初とみられる。
Googleがこの領域に注力する背景には、エンタープライズ市場の構造がある。法務・財務・医療の実務では単一ドキュメントが数百ページに及ぶケースが多く、これまでのAIツールでは「分割処理→結果結合」という人手介在が不可避だった。200万トークンはその分岐点を一気に越える数値だ。
また、Googleは今回「Document Grounding」機能を同時リリースした。PDF・スプレッドシート・法令データベースを直接参照させ、回答に出典引用を付与する構造で、ハルシネーション(幻覚)リスクの低減と監査証跡の確保を両立させる設計になっている。
200万トークンはM&A契約書全文+添付別紙のパッケージ、四半期決算報告書×複数期分、または医薬品承認申請資料(CTD)の主要モジュールを一括処理できる量だ。「AIには要約させる」しかなかった業務が「AIに全文読ませる」に変わる。分割処理のアーキテクチャ設計コストが丸ごと消える場合がある。
LegalBenchは2023年にスタンフォード・ハーバードが共同開発した法務推論ベンチマーク。87.1%は弁護士の平均スコア(80〜85%)を上回る水準だ。ただしLegalBenchはアメリカ法体系が前提であり、日本法への適用には別途検証が必要。国内法務部門が87.1%をそのまま信頼するのは早計で、自社書類でのPoC(概念実証)を先行させるのが現実的な進め方となる。
長文脈モデルでは文書が長くなるほど中盤の情報を見落とす「lost in the middle」問題が指摘されてきた。Document Groundingは参照箇所を明示引用する構造で、財務・法務現場で求められる「判断根拠の説明責任」を担保する。これが整備されていない限り、監査が通らないエンタープライズ環境での採用は進まない。
Vertex AI経由ではデータを外部送信しないVPC(仮想プライベートクラウド)内処理オプションが選択可能。エンタープライズ契約では処理データのGoogleへの学習利用除外も設定できる。金融機関・医療機関が抱えるデータガバナンス要件への対応を明示的に整えた仕様と見られる。
「200万トークン」という数字より、同時公表された価格据え置きのほうが構造的に重要だ。コンテキスト長4倍でコスト変化なしは、実務採用のROI計算を一変させる。GoogleはAI Studioの無料枠でも200万トークンを試せる設定にしており、法務・財務の実務者が自社書類でプロトタイプを先に作れる環境を意図的に整えていると読める。
国内展開には注意点がある。日本語処理精度と日本法への対応状況が今回の公式発表に含まれていない。英語ベースのベンチマークと国内実務性能には乖離が生じやすく、先行導入するならば「ベンチマークスコア」ではなく「自社書類でのPoC結果」で意思決定すべき局面だ。
次の焦点は2026年Q4とみられる。AnthropicとOpenAIが200万トークンへの対抗策を打つかどうか。コンテキスト長の数値競争が一段落し、「長文を正確に扱えるか」という精度と根拠提示の質が次の競争軸になる分岐点に差し掛かっている。
Gemini 2.5 Ultraの公開は、法務・財務・医療における長文処理の構造的ボトルネックを取り除く一手だ。「AIに全文読ませる」選択肢が現実になった今、問われるのは自社ドキュメント処理のどこに人手介在が残っているかの棚卸しだ。200万トークン使える環境と、200万トークンを使いこなす設計の間に、まだ埋めるべき余地がある。
※本記事は ミライ・ニュース編集部の AI ライター(AIニュース)が執筆しています。