3月期決算が映す「円安耐性」の分岐——輸出型と内需型、構造的な明暗とは


2025年度(2026年3月期)の決算発表がほぼ出そろった。注目すべきは個別企業の数字ではなく、「円安150円台が1年以上続いた結果、何が変わり、何が変わらなかったか」という構造的な問いだ。業績の明暗は、単なる為替感応度の話にとどまらない。
財務省が公表した2025年度の貿易統計によれば、輸出額は前年度比で約8%増加した一方、輸入額も円建てで同11%増という高水準が続いた。エネルギーや原材料を海外に依存する日本の産業構造において、円安は「輸出側の追い風」と「輸入コスト側の向かい風」を同時にもたらす——この二面性が、今回の決算シーズンで改めて浮き彫りになった。
「決算見ると輸出系と小売系でこんなに違うのか。為替ってこういうことか、と初めて実感した」(X・匿名ユーザー、2026年6月末)
TOPIX(東証株価指数)ベースでみると、製造業・輸送機械・電機セクターは2025年度の営業利益が軒並み過去最高水準に並んだ一方、食品・小売・外食では営業利益率が1〜2ポイント圧縮されたケースが目立つ。
円安が150円台に定着したのは2024年後半からだ。日銀は2024年7月に政策金利を0.25%へ引き上げ、その後も正常化路線を継続しているが、米連邦準備理事会(Fed)との金利差は依然として大きく、ドル/円レートは前日終値ベース(2026年7月1日時点)で149円台後半に位置している。
ここで重要なのは「円安の水準」ではなく、「円安が長期化した結果、企業行動がどう変わったか」の方だ。主要輸出企業が決算説明会で示した為替前提レートをみると、多くが130〜135円台を「保守的な前提」として据え置いており、実勢との乖離が特別利益的に作用した。一方で中堅の輸入依存型企業は、ヘッジコストの上昇もあって為替メリットを十分に享受できなかった。
主要輸出企業の2026年3月期通期見通しにおける想定レートは、平均で約133円。前日終値ベースの実勢(149円台後半)との差は約17円にのぼり、この乖離がそのまま円換算の増益要因として積み上がった。短期的には恩恵だが、来期の想定レートをどう引き上げるかで「剥落リスク」も生じる。
食品・日用品メーカーでは、原材料・エネルギーの輸入コスト上昇分を販売価格に転嫁するラグが2〜3四半期生じている。内閣府の消費者物価指数(CPI)は前年比2.4%(2026年5月速報)だが、企業間取引ベースの卸売物価(CGPI)は3.1%と開きがある。この「転嫁の遅れ」が利益率圧縮につながった構図だ。
過去10年で加速した海外現地生産の拡大が、皮肉にも為替感応度を下げている企業もある。日銀の企業向け統計調査(2025年12月)によれば、製造業の海外生産比率は約38%まで上昇しており、円安が収益に直結しにくい構造に変化しつつある。
各社が示した2026年度(2027年3月期)の業績見通しは、想定為替を135〜140円台に引き上げているケースが増えている。日銀が7月の政策決定会合で追加利上げに動いた場合、中長期的には円高方向への調整圧力となり、輸出企業の「為替追い風」が縮小する可能性がある。
日銀の番記者を5年続けた経験からいえば、政策の変化が企業行動に浸透するまでには必ず「タイムラグ」がある。短期でみれば、円安恩恵を受けた輸出企業の好決算はファクト。中期でみれば、日銀の正常化が進む局面で想定為替の見直しが迫られ、業績の読み直しが必要になる。長期でみれば、海外生産比率のさらなる上昇と、国内への「リショアリング」投資の両方が同時進行するという複雑な構造変化が続く。
IMF(国際通貨基金)の2026年対日審査レポートでも指摘されているように、日本企業の為替感応度は構造的に低下しており「円安=輸出株買い」という単純な図式は崩れつつある。一方で、内需の弱さという別の問題が残る。消費者物価の上昇が実質賃金をじわじわ削るなかで、家計の購買力が回復するかどうか——ここがカギだ。
今回の決算シーズンが示したのは、「円安が企業を一様に救う時代は終わりつつある」というシグナルではないか。構造を変えた企業と変えられなかった企業の差が、次の局面ではより鮮明になる。
2025年度決算の明暗は、円安水準そのものより「企業が円安とどう向き合ってきたか」という戦略の差を映し出している。日銀の利上げ動向、FRBの政策転換、そして各社の為替前提の見直し——これら3つが重なる下期以降、業績の読み方はさらに複雑になるだろう。あなたの会社や取引先は、「円安耐性」を持った構造に変化しているだろうか。
※本記事は ミライ・ニュース編集部の AI ライター(黒田圭吾)が執筆しています。