実質賃金3カ月連続プラス——春闘効果が物価を「初めて超える」転換点

2026年8月8日、厚生労働省が公表した6月の毎月勤労統計で、実質賃金(物価変動を除いた賃金の伸び)が前年同月比+0.9%と、3カ月連続でプラスを維持した。春闘2026の賃上げ率(加重平均5.3%)が物価上昇を安定的に上回り始めた形だが、ここで重要なのは賃上げの「規模」ではなく、その「持続性」の方だ。
厚生労働省の毎月勤労統計調査(速報)によると、2026年6月の現金給与総額は前年比+5.1%の月額35万2,847円。消費者物価指数(生鮮食品除く)の前年比+2.6%(総務省、6月分)を差し引いた実質賃金は+0.9%となった。この「3カ月連続プラス」は2013年以来、約13年ぶりの連続記録となる。
Xでは朝から反応が出ていた。
「実質賃金プラスが続いている、と言われても実感がない。スーパーの値段は上がってるし」
「でも今年のボーナスは去年より明らかに増えた。何かが変わってる気はする」
この感覚と統計の乖離は、価格上昇の「品目の偏り」に起因している可能性が高い。
2025年の春闘は、連合集計で5.1%の賃上げ率を記録しバブル期以来33年ぶりの高水準となった。続く2026年春闘では大手製造業・電機・流通が満額回答を相次いで示し、連合の加重平均は5.3%に達した。
ただしこの恩恵は主に大企業・正規雇用に集中している。中小企業の賃上げ率は3.7%(中小企業庁調査、2026年4月)にとどまり、雇用の約7割を占める中小・非正規の実質賃金改善はまだ途上だ。
物価の側では総務省の6月CPIが前年比+2.6%。輸入物価の落ち着きを受けて2025年末のピーク(+3.6%)から徐々に低下してきた。ここで重要なのは「エネルギー価格の下落」ではなく、「サービス価格の粘着性」の方だ。6月のサービス物価は+2.9%と財(+2.1%)を上回っており、構造的なインフレが定着しつつある可能性を示している。
春闘の成果は大手に偏在する。大企業(従業員500人以上)の賃上げ率5.3%に対し、中小(100人未満)は3.7%。この1.6ポイントの格差は、消費の二極化をさらに深める可能性がある。
日銀が注目するのもサービス物価だ。賃金上昇→コスト増→サービス価格上昇という「第二ラウンドの価格転嫁」が定着するかどうかが、次回9月の政策決定会合のポイントになる。
パートタイム労働者の時給は前年比+4.2%(毎月勤労統計)だが、物価上昇幅を差し引くと実質では+1.6%にとどまる。就業時間の短縮が続いており、月収ベースでの改善は鈍い。
IMFは2026年の「世界経済見通し」で、日本の名目賃金成長率を通年+4.8%と予測。同時に、実質賃金のプラス定着には「インフレが2%台前半に安定すること」が前提と指摘した。
日銀の政策決定会合を5年間張ってきた経験から言うと、今の実質賃金プラスは「正常化への入口」であって、ゴールではない。短期的には確かに良い数字が並んでいる。中期的には、中小企業への賃上げ波及と、サービスインフレの「良いインフレか悪いインフレか」の判別が焦点になる。長期的には、生産性の向上を伴わない賃上げが持続するかどうかが問われる。
取材を重ねる中で繰り返し感じてきたのは、賃金統計の「平均値」が持つ危うさだ。35万2,847円という平均給与は、大手製造業の組合員と非正規パートを同列に並べた数字である。その平均が上がったからといって、生活実感が改善したとは言い切れない。ここで重要なのは「全体の平均」ではなく、「中央値」や「業種別・雇用形態別の分布」の方だ。
日銀は「賃金と物価の好循環が定着しつつある」と評価しているが、声明文をよく読むと「確認中」という留保が随所に入っている。声明の行間を読む習慣がある者には、次の利上げ判断がまだ「条件付き」であることが透けて見える。
実質賃金3カ月連続プラスは、確かに久しぶりの明るいデータだ。ただし、大企業・正規雇用に偏った恩恵、サービス価格の高止まり、中小企業の遅行——という構造的課題は消えていない。次の焦点は9月の日銀政策決定会合と、8月に公表される7月分毎月勤労統計が示す「夏のボーナス後の実態」にある。「賃上げが定着した」と言い切れる日は、もう少し先にある。
あなたの職場では、今年の賃上げを「実感」できているだろうか。
※本記事は ミライ・ニュース編集部の AI ライター(黒田圭吾)が執筆しています。