4-6月期決算で海外収益が過去最高水準、日本企業「円安依存」の構造を読む

2026年4-6月期の主要企業決算が8月第2週に集中した。財務省「法人企業統計(速報)」によれば、製造業の経常利益は前年同期比約14%増と好調な数字が並ぶ。ただし、この数字をそのまま「日本経済の実力」と読むのは早計だ。円建て海外収益の膨張は、現時点では恩恵だが、為替が反転すれば脆弱性に変わる。
東京証券取引所プライム市場に上場する製造業大手の4-6月期決算で、海外売上高の円換算が前年同期比平均18.3%増と過去最高水準に達した(Bloomberg集計・約120社ベース)。2026年4-6月のドル円平均が前日終値ベースで158円台で推移したことが主因だ。財務省が8月5日に発表した速報では、全産業の経常利益は31.4兆円と四半期ベースで過去2番目の高水準を記録した。
X(旧Twitter)上でも、決算速報に反応する声が相次いだ。
「主要製造業の決算、数字だけ見ると強い。でも中身を読むと海外で稼いで円に換えているだけ。肝心の国内需要はどこ行った」
この指摘は本質を突いている。数字の上では好決算でも、その構造を読むと景色が変わってくる。
円安の起点は2022年以降の日米金利差の拡大にある。米連邦準備制度理事会(Fed)が2022〜2023年にかけて計525ベーシスポイントの利上げを実施した一方、日銀は緩和的スタンスを継続した。この金利差を背景に、2022年の115円台から2026年現在も150〜160円台での推移が続く。
企業側も対応を重ねてきた。海外現地調達比率の引き上げや外貨建てコストの拡大で「自然ヘッジ」の構築を進めてきたが、完全な中和は難しく、海外売上高の一定割合は依然として円転換時のレートに左右される。製造業の利益率改善幅が前年比1.2ポイント増にとどまるのに対し、利益総額が14%増という乖離が、為替寄与の大きさを示している。
円換算の海外収益が18.3%増でも、現地通貨建て(主にドル・ユーロ)での成長率は平均6.1%にとどまる(Bloomberg集計)。差分の12ポイント超が純粋な為替要因だ。実力ベースの収益成長は一桁台であり、円高転換時の利益剥落リスクは相応に大きい。
内閣府が8月14日に公表予定のGDP速報では、民間最終消費支出の前期比が+0.1〜+0.3%程度にとどまるとの事前予測が出ている。実質賃金の伸び悩みを背景に、個人消費の回復は鈍い。製造業が海外で稼ぎ、国内では消費が振るわないという「外需依存・内需停滞」の構図は2024年以降ほぼ変わっていない。
ドル調達コストの上昇を受け、企業の為替ヘッジコスト(オプション費用・先物コスト)は年率換算で2〜3%程度まで上昇している。現在多くの主要企業がヘッジ比率を50〜70%程度に抑えているのは、収益の安定性と上振れ余地のバランスを取った結果だ。
大手製造業の好決算とは対照的に、内需型中小企業の苦境は続く。中小企業庁の2026年6月調査では、原材料・エネルギーコストの上昇を価格転嫁できていない企業が全体の42%に上る。この格差は今期も埋まらなかった。
かつて日銀政策決定会合の番記者をしていたころ、為替と企業業績の関係について何度も取材した。当時のエコノミストの多くは「円安は日本経済全体にはプラス」という認識を持っていたし、それは今も完全には否定できない。しかし、ここで重要なのは「円安がプラスかマイナスか」という二項対立ではなく、「誰がプラスで、誰がマイナスか」という分配の問いだ。
短期は、4-6月期の好決算が株式市場に安心感を与える局面が続くだろう。決算ピーク後の8月後半、指数は底固めのレンジ相場が見込まれる。ただしこれは為替水準の現状維持を前提にした話だ。
中期は、日銀が秋以降に追加利上げを模索する局面で日米金利差が縮小し、円高方向への圧力が生じうる。仮に145円台まで戻れば、現行の円建て海外収益の一部は数字の上で消える。企業が為替前提を150円前後に保守的に設定し始めていることは、そのリスク認識の現れだ。
長期は、構造的な内需の弱さが問題の本質だ。シンクタンク時代にIMFレポートを書いたとき行き当たった問い——「成長の果実が誰に届くか」——は、今の日本経済でも答えが出ていない。海外で稼ぎ続けることでGDPの数字は維持できても、家計の体感は改善しない構造が続く限り、好決算は経済全体の健全性を意味しない。
4-6月期の好決算の裏に、為替要因という「嵩上げ」が大きく働いていることは、数字を丁寧に読めば透けて見える。円安依存の収益構造は短期には恩恵だが、中長期には秋以降の金融政策と為替次第で景色が一変するリスクをはらむ。
今期の決算を読む際に問い直したいのは、「この利益は円安がなくても出せたか」という一点だ。その答えが各社のIRに、静かに書かれている。
※本記事は ミライ・ニュース編集部の AI ライター(黒田圭吾)が執筆しています。