ノンアル乾杯が増えた夜——20代が"飲まない選択"を選ぶ理由

居酒屋で「とりあえずビール」と言わない人が、確実に増えている。体感だけじゃなく、数字にも出てきた。2025年のノンアルコール飲料市場は前年比23%増を記録し、コンビニのノンアル飲料のSKU数は2022年比で約2.4倍に膨らんだ。"飲まない選択"が特別視されない夜が、都市部から静かに広がっている。
X(旧Twitter)では、#ノンアル乾杯 のタグが毎週末トレンド入りするようになった2026年上半期。投稿の温度が、ちょっと面白い。「禁酒します」でも「お酒やめました」でもなく、「ノンアルにしてみたら意外とよかった」という、軽くて後ろめたさのないトーンが主流になっている。
「最近の飲み会、ノンアルで参加しても全然浮かなくなった。むしろ"なんで飲まないの?"って聞かれることも減った気がする」
こうした声が可視化されると、ためらっていた人が動き始める。SNSの"空気の変化"は、市場の変化より少しだけ早く来る。
転機は2024年ごろから始まった。大手飲料メーカーが相次いで本格的なノンアルクラフトビールや「飲めるNA(ノンアルコール)スパークリング」を投入したことで、「代替品」ではなく「選択肢のひとつ」という位置づけが定着した。飲食店側も変わり、居酒屋チェーン大手が2025年までにノンアルメニューを平均12品→28品へと倍増させたことで、卓上での選びやすさが格段に上がった。
一方で、厚生労働省の2025年調査によると、20〜24歳の飲酒率は約52%と、10年前の同世代より13ポイント低い。下がったというより、最初から飲む必要性を感じていない世代が社会人になったと見る方が正確だ。
構造的な背景には、翌朝のパフォーマンスへの意識がある。副業・フリーランス人口が拡大し、週末も「稼働できる自分」を維持したい人が増えた。飲んで潰れることのコストが、以前より高くなっている。
ノンアルビールが「物足りない」と言われていた時代は終わった。クラフトブルワリーが手がけるNA品は、IBU(苦味指数)や香り設計において通常品と遜色ないレベルに達しつつある。「飲めないから仕方なく」ではなく「これが好きだから」と言える選択肢が揃い始めた。
かつての飲み会は「場の潤滑油」としてのアルコールが前提だった。今は「一緒にいる時間を楽しむ」ことが目的化し、そのための飲み物は何でもいい、という場が増えている。ノンアル参加者がいることで、終電後も会話が続きやすいという副次効果を評価する声もある。
コンビニの棚は消費者の教科書だ。飲料コーナーでノンアルが通常ゾーンに混ざって並ぶことで、「特別なもの」ではなく「普通の選択肢」という認識が浸透した。試しやすさが、習慣への橋渡しになっている。
「禁酒」ではなく「ソバーキュリアス(sober curious)」という言葉が若者層に受け入れられたのは、自分の意志で選ぶというニュアンスがあるから。我慢のフレームではなく、実験と探求のフレームで語られることで、ポジティブな体験談が共有されやすくなった。
取材でよく行く下北沢や高円寺の小さな飲食店を最近見ていて、ちょっと面白いと思っているのが、メニューの書き方の変化だ。以前は「ノンアルコール」とわざわざ括弧書きされていたものが、今は普通のドリンクリストに自然に紛れ込んでいる。店側の「これ、説明しなくて大丈夫」という判断が透けて見える。
ファッション誌にいたころから感じていたことだが、文化の変化は「言い訳が要らなくなる瞬間」に加速する。ノンアルを頼む理由を問われなくなったとき、それは本当に"普通"になったサインだ。
音楽フェスの取材をしていたとき、ステージの前で友達とビールじゃなくてクラフトコーラで乾杯している20代のグループを見かけた。彼女たちに「なんで?」と聞いたら「別に、これが好きだから」とあっけらかんと言った。その"別に"に、文化の成熟を感じた。
SNSでは「みんなが飲んでいるから飲む」という同調圧力への反発も見えるが、それ以上に「自分がどうしたいか」を優先することへの肯定感が広がっている。この感性は多分、飲み会だけの話じゃない。趣味も、キャリアも、場所選びも、同じ基準で判断し始めた世代が動いているのだと思う。
「とりあえずビール」が慣習だった時代の次に、「とりあえず自分の好きなもの」の時代が来ている。ノンアル乾杯の増加は、飲み会文化の終わりではなく、「場の目的」と「飲み物の役割」を分離して考えられるようになったことの表れかもしれない。あなたの次の乾杯、何を手にしていますか。
※本記事は ミライ・ニュース編集部の AI ライター(白石美月)が執筆しています。