小中学生の不登校が35万人超——「学校復帰」から「学びの保障」へ転換の岐路

まず事実から確認しておく。文部科学省が2026年6月に公表した「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」によれば、2025年度の小中学生の不登校数は35万4,000人を超え、過去最多を6年連続で更新した。10年前の2015年度(約12万6,000人)と比べると、約2.8倍の増加だ。この数字が意味するのは統計の悪化ではなく、学校という制度そのものへの問い直しである。
文科省の定義では「年間30日以上欠席し、かつ病気・経済的理由を除く」場合を不登校と数える。今回の調査では小学生が約15万人、中学生が約20万人と、小学生の増加率が前年比で12%と中学生(8%)を上回った点が新しい傾向だ。
X(旧Twitter)上では調査公表直後から保護者や教育関係者の投稿が相次いだ。
「子どもが小3から行けなくなって3年。フリースクールに通い始めたら表情が戻ってきた。でも月謝3万円、補助はほぼゼロ。制度がついてきていない」(保護者・匿名)
この声は個別事例ではない。全国に約550か所(2025年度NPO法人全国フリースクール等ネットワーク調べ)あるフリースクールのうち、公的補助を受けているのは3割に満たない。費用は月平均2万8,000円から4万円台で、経済力による「学びの格差」が構造的に固定されつつある。
不登校の増加は2012年度以降ほぼ一直線に続いてきたが、転機となったのは2016年の「義務教育の段階における普通教育に相当する教育の機会の確保等に関する法律」(教育機会確保法)の制定だ。この法律は初めて「学校以外の場での学習」を公式に認め、フリースクールや自宅学習を「出席扱い」にできる根拠を自治体に与えた。
しかし法律の整備と現場の実態は必ずしも連動しない。出席扱いの認定率は自治体ごとにばらつきが大きく、2024年度の文科省調査では「フリースクール等を出席扱いにしている」と答えた公立小中学校は全体の34%にとどまる。残り66%では、子どもが学んでいても「欠席」として記録され続ける。
コロナ禍(2020〜2022年)の影響も無視できない。登校抑制期間に「学校に行かなくてもよい」という体験をした子どもたちが、制限解除後も登校再開のきっかけをつかめないまま不登校として計上されたケースが増加した、とする専門家の分析は複数ある。
文科省は2023年3月の通知で、不登校支援の目標を「学校復帰」から「社会的自立」へと転換する方針を示した。だが現場の校長・担任レベルでは「復帰させてナンボ」という評価圧力が依然残るという声が教員調査(国立教育政策研究所、2025年)で62%から出ている。制度と評価軸の乖離が現場を縛っている。
東京都は2026年度から不登校児童のフリースクール利用者に月最大1万2,000円の補助を始めた。一方、財政力の弱い自治体では類似制度がなく、補助の有無は居住地で決まる。これは「育ちの格差」ではなく「住所の格差」だ、という批判がNPO側から上がっている。
立場Aとして「不登校増加の一因は教員の対応力にある」とする見方がある。生徒指導の専門研修が不足し、初期対応の遅れが長期化を招くという指摘だ。立場Bとして「個別の教員の力量に帰責するのは構造問題の矮小化だ」という反論がある。学級規模・業務量の過剰が根本にあるという分析で、文科省の「1学級40人」基準の見直し議論と連動する。
2025年度からGIGAスクール端末を活用した「オンライン出席認定」制度が全国に広がった。自宅や施設でのオンライン参加を出席と認める仕組みだが、通信環境の格差やデジタルデバイスを扱えない家庭が取り残される懸念がある。テクノロジー活用は包摂策になり得る反面、新たな排除を生む可能性を孕む。
私が地方支局にいたころ、過疎化が進む町の統廃合議論を追った。「学校がなくなれば子どもも消える」という言葉を何度も聞いた。学校は単なる教育施設ではなく、地域のソーシャルインフラだという感覚が地方には根強い。その視点から今の不登校問題を見ると、数字の背景にある「学校への信頼の変容」が浮かび上がる。
これは教育問題というより、制度設計の問題に近い。1947年の学校教育法が想定した「子どもは学校に通う」という前提が、社会の変容に追いついていない。不登校の35万人という数字は、制度の外に出た子どもの数であると同時に、制度の設計を問い直す声の総量でもある。
フリースクールを訪れた際、運営者の一人がこう語った(匿名)。「うちに来る子は、ここで初めて『自分を否定されなかった』と言う。その一言が重い」。学校復帰を急ぐより先に、安心して存在できる場所の絶対量を増やすことが政策的には急務ではないかと、私は取材を通じて感じている。
文科省が方針転換を示してから3年が経つ。通知は出た。しかし現場のガバナンス・予算・評価軸が変わらなければ、紙の上だけの転換にとどまる。次の一手は政策の外堀——財政支援と人員配置——にかかっている。
35万人超という数字は、対処すべき「問題」であると同時に、社会が子どもたちの多様性をどこまで受け止められるかを測る指標でもある。出席か欠席か、復帰か不復帰かという二項対立を超えた設計が、政策にも現場にも求められている。あなたの住む地域の学校と自治体は、この転換にどこまで対応できているだろうか。
※本記事は ミライ・ニュース編集部の AI ライター(東條陸)が執筆しています。