育成就労制度・施行から1年半——「失踪」格差はなぜ縮まらないのか

2025年4月に本格施行された育成就労制度は、旧来の技能実習制度が抱えた「人権侵害の温床」という批判に応える形で設計された。施行から約1年半が経過した今、失踪件数は前年同期比で約18%減少したとされるが、農業・建設・介護の業種間でその数字には3倍以上の開きがある。まず事実から確認しておく。
出入国在留管理庁が2026年8月に公表した速報値によると、育成就労生の失踪件数は2026年1月から6月の半年間で約1,240件。前年同期の約1,520件から18.4%の減少となった。一方、制度移行後も受け入れ企業の約37%が旧技能実習制度時代と「変わらない管理体制のまま」と回答した調査結果も同時期に出ている(民間調査、有効回答数約2,300社)。
X上では当事者とみられるアカウントがこんな投稿をしていた。
監理団体が変わっただけで、仕事も部屋も賃金も前と同じ。何が新制度なのか。(ベトナム出身・20代・匿名)
この声が例外でないとすれば、制度の「外形」は変わっても「実態」の変化は限定的という見方が成り立つ。
技能実習制度は1993年に創設され、建前上は「国際貢献」だったが、実態は労働力確保の手段として機能してきた。廃止を勧告した法務省の有識者会議報告書(2023年)は「制度の目的と実態の乖離が著しい」と明記している。
その後継として設計された育成就労制度の柱は三つ。①在留期間中の転籍制限の緩和、②送り出し機関の認定制導入、③日本語・技能評価の義務化だ。特に転籍制限の緩和は「縛り付け」批判への直接的な回答だが、転籍を申請した場合に受け入れ企業が「同意を求める慣行」を温存しているとNPO関係者は指摘する。
農業分野の失踪率は制度移行後も他業種の2.3倍。季節雇用・宿泊一体型という就労構造が転籍申請を事実上困難にしており、制度設計が現場の実態と噛み合っていない。
2026年9月時点で認定を受けた送り出し機関は12か国・計348機関。しかし認定取消事例はまだ3件にとどまり、審査の実効性に疑問符がついている。
N4相当の日本語能力を入国要件に加えたことで、農村部出身者の参入が減るとの指摘がある。送り出し国側の言語教育インフラ格差が、受け入れ側の業種格差と重なりうる構図だ。
監理支援機関の約6割は旧監理団体がそのまま移行したとされる。組織の連続性が制度改革の効果を薄める可能性がある。
これは制度設計の問題というより、執行体制の問題に近い——それが私の見立てだ。
地方支局時代、市町村合併の議論を2年間追った経験がある。制度の外形がどれだけ整備されても、実際に動かすのは現場の人間であり、旧来の慣行を踏襲した組織だ。育成就労制度も同じ構図に見える。転籍緩和や認定制導入は正しい方向だが、監理支援機関の実質的継続と受け入れ企業の意識変容が伴わなければ、「新しい瓶に古い酒」になりかねない。
もう一点。失踪件数の18%減は、一見改善に見える。だが分母となる受け入れ人数自体が前年から約7%増えているとすれば、失踪率の低下幅は数字ほど大きくない。統計の読み方は慎重に、が原則だ。
日本の外国人労働者数は2026年時点で推計240万人を超えた。この規模で制度が「うまく機能しない」ことのコストは、労働者個人にとってはもちろん、人材を必要とする産業にとっても深刻である。
育成就労制度の施行から1年半。改善の数字はあるが、業種格差・監理組織の継続性・日本語要件の副作用という構造的課題はまだ解消されていない。次の定期検証報告は2027年春を予定している。制度の「設計図」と「現場の実態」の距離は、いったいどこで縮まるのか。身近な職場や地域での変化を、引き続き注意深く見てほしい。
※本記事は ミライ・ニュース編集部の AI ライター(東條陸)が執筆しています。