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この記事でわかること
2026年10月初旬、あるソフトウェア開発者が大胆な宣言をしました。「ソフトウェアは終わった」。そう語るのは、15年のキャリアを持つBrandon Thomas氏です。彼はAIを使って、Adobeの主要製品すべての無料クローンを作り上げました。
PhotoshopやPremiereといった業界標準ツールを、たった一人で、しかも数週間で複製したのです。使ったのはAnthropicのAI「Claude Opus 5.5」とプログラミング言語「Rust」だけでした。
この動きは世界中のクリエイターに衝撃を与えています。月額6,000円以上かかるAdobe Creative Cloudの代わりに、完全無料でオープンソースのツールが使えるようになるかもしれないからです。
Thomas氏が開発したのは「ArtCraft Crafting Apps」というプロジェクトです。7つのAdobe製品に対応するアプリを作っています。
すでに公開されているアプリは次のとおりです。PhotoCraft(Photoshop代替)、VectorCraft(Illustrator代替)、FilmCraft(Premiere代替)、LightCraft(Lightroom代替)、EffectCraft(After Effects代替)、DesignCraft(InDesign代替)、PrintCraft(Acrobat Pro代替)の7つです。
PhotoCraftとPrintCraftは「初期アルファ版(Early alpha)」として動作するバージョンが公開されています。残りの5つは「開発中(In development)」の状態です。
PhotoCraftはすでに34種類のツール、27種類のブレンドモード、レイヤー機能、マスク機能を備えています。さらにAdobe形式の.psdファイルも開けるのです。つまり、PhotoshopからPhoCraftへの移行が簡単にできます。
これらのアプリはWindows、macOS、Linuxのすべてで動きます。Adobeが公式対応していないLinuxでも使えるのは大きな特徴です。
なぜThomas氏はこのプロジェクトを始めたのでしょうか。きっかけは個人的な怒りでした。「Adobeに何度もキャンセル料金を取られた。それ以来、ずっと嫌いだった」とThomas氏は語っています。
Adobeのサブスクリプション(定期契約)は解約が複雑です。年間契約を途中で解約すると、残りの月額料金の最大50%を請求されます。しかも、その説明が契約時に分かりにくい場所に書かれていました。
この問題は法的な決着を迎えています。2024年、アメリカの連邦取引委員会(FTC)がAdobeを提訴しました。そして2026年3月、Adobeは1.5億ドルを支払う和解に合意したのです。
和解金の半分(7500万ドル)は司法省へ、残り半分は対象顧客への無料サービスとして支払われます。Thomas氏のプロジェクトは、この和解のニュースが広まった直後に発表されました。
かつて、Photoshopのようなプロ向けソフトを作るには、大規模なチームと何年もの開発期間が必要でした。しかし、AIがその常識を変えました。
Thomas氏が使ったClaude Opus 5.5は、2026年9月にリリースされたばかりのAIモデルです。コード生成、デバッグ、リファクタリング(プログラムの書き直し)に優れています。
実際のテストでは、20万行のコードを3時間未満で監査・修正しました。前バージョンのOpus 5では20時間以上かかった作業です。つまり、7倍近く速くなったのです。
別のテストでは、有名なソフトウェア「HAProxy」をC言語からRustに翻訳する作業を9.5時間で完了しました。翻訳後のプログラムは、元のテストのほぼすべてに合格しています。
つまり、AIは単にコードを書くだけでなく、既存ソフトウェアの仕組みを理解し、別の言語で再現できるのです。この能力が「プロ向けソフトのクローン作成」を可能にしました。
ただし、ArtCraftのアプリはまだ完成品ではありません。PhotoCraftとPrintCraftは「初期アルファ版」という開発の初期段階です。
アルファ版とは、基本機能は動くけれど、バグ(不具合)が多く、すべての機能が揃っていない状態を指します。実際の仕事で使うにはリスクが高いでしょう。
それでも、Thomas氏は自信を持っています。「1ヶ月以内にAdobeのコア機能100%を実現する」と約束しているのです。AIの助けがあれば、この野心的な目標も不可能ではないかもしれません。
すべてのアプリはオープンソースとして公開されています。つまり、誰でもプログラムの中身を見て、改良できます。世界中の開発者が協力すれば、開発スピードはさらに加速するでしょう。
Thomas氏は単なるアマチュア開発者ではありません。彼のキャリアは印象的です。
決済大手Squareでソフトウェアエンジニアとして働き、1日に数十億ドルを動かす決済システムを開発しました。ロボティクス(ロボット工学)や光学自動化の分野でも経験があります。
さらに、Storyteller.aiというスタートアップのCEOも務めていました。Rust言語の専門家として約10年のキャリアを持ちます。
つまり、高度な技術力を持つベテラン開発者が、AIの力を借りて本気でAdobeに挑戦しているのです。これは単なる趣味プロジェクトではありません。
このプロジェクトが業界に与える影響は計り知れません。SaaS(Software as a Service、サブスクリプション型ソフトウェア)というビジネスモデルそのものが揺らいでいます。
従来、プロ向けソフトウェアの開発には莫大なコストがかかりました。だから、月額課金で収益を上げる必要がありました。ユーザーも、代替手段がないため支払うしかなかったのです。
しかし、AIが登場してゲームが変わりました。一人の開発者が数週間で、大企業の製品に匹敵するソフトを作れるようになったのです。
これは「ソフトウェアの民主化」と呼べる現象です。高価なツールが無料になれば、クリエイターの参入障壁が下がります。世界中のより多くの人が、プロレベルの作品を作れるようになるでしょう。
ただし、法的な問題も残っています。ArtCraftのアプリはAdobeのソフトウェアを「リバースエンジニアリング(逆解析)」して作られました。
Thomas氏は「クリーンルーム方式」で開発したと主張しています。これは、元のプログラムのコードを直接コピーせず、機能だけを参考にして一から書き直す手法です。
しかし、Adobeが法的措置を取る可能性はゼロではありません。ユーザーインターフェース(画面デザイン)の類似性や、.psdファイル形式の互換性などが争点になるかもしれません。
一方で、オープンソースコミュニティはこうした挑戦を支持する傾向があります。仮にAdobeが訴訟を起こせば、大企業vs個人開発者という構図になり、世論の反発を招く恐れもあります。
日本でもAdobe Creative Cloudの利用者は多くいます。フリーランスのデザイナーや映像クリエイターにとって、月額6,000円以上の出費は小さくありません。
もしArtCraftが本当に実用レベルに達すれば、日本のクリエイターにも選択肢が生まれます。特に、予算が限られている学生や駆け出しのクリエイターにとっては朗報でしょう。
ただし、プロの現場では互換性が重要です。クライアントやチームメンバーがAdobe形式でデータをやり取りしている場合、完全に移行するのは難しいかもしれません。
それでも、個人プロジェクトや学習用途では十分に活用できるはずです。オープンソースなので、日本語化やローカライズも有志が行う可能性があります。
このプロジェクトは、AIがソフトウェア開発をどう変えるかを示す実例です。今後、同様の動きが他の分野でも起きるでしょう。
たとえば、Microsoft OfficeやAutodesk製品のクローンも登場するかもしれません。高価なエンタープライズソフトウェア(企業向けソフト)も例外ではないでしょう。
一方で、AIによるコード生成にはリスクもあります。セキュリティの脆弱性(弱点)が混入する可能性や、既存ソフトウェアのライセンス違反が問題になる恐れがあります。
それでも、技術の進歩は止まりません。「ソフトウェアは終わった」というThomas氏の言葉は、大げさではないのかもしれません。少なくとも、従来型の高額サブスクリプションモデルは、大きな転換期を迎えています。
この記事は AI Friends からのクロスポストです。