介護職員100万人不足時代——2035年「ケア崩壊」は回避できるか

まず事実から確認しておく。厚生労働省の推計では、2035年に介護職員が約100万人不足するとされている。団塊の世代が全員85歳以上となり、介護需要がピークを迎えるタイミングと重なる。これは福祉制度の問題というより、社会インフラの問題に近い。静かに積み上がってきた「人材危機」が、いよいよ政策論議の射程圏に入ってきた。
2026年7月時点、介護施設の人員配置基準を満たせない事業所が全国で増加傾向にある。介護労働安定センターの2025年度調査では、訪問介護事業所の約42%が「人員不足」を訴えており、特別養護老人ホームでは新規入所を制限するケースも相次いで報告されている。月の残業時間が30時間を超える介護職員は全体の約18%にのぼるとされる。
X(旧Twitter)では、現場で働く介護職員とみられるアカウントの投稿が拡散した。
「担当利用者が今月また2人増えた。体が2つほしい。給料は変わらず、責任だけが増える。これ、いつまで続くんだろう」
こうした「悲鳴」は今に始まったことではないが、7月に入り複数の自治体が介護事業所の廃業増加を公表したことで、問題は再び可視化された。
この問題の根底にあるのは、介護報酬の構造だ。介護サービスの価格は国が定める「介護報酬」によって規定され、市場原理では上昇しにくい。2024年度の報酬改定では平均1.59%のプラス改定が行われたが、同期間の物価上昇率(約3%前後)には届かず、実質的な目減りが続いている。
有効求人倍率で見ると、介護分野は2025年に3.9倍と全産業平均(約1.3倍)の3倍超に達している。1人の求職者に対し4件近い求人がある計算だが、なり手はいない。低賃金・重労働・社会的評価の低さという三重苦が、参入障壁として機能しているためだ。
政府は2040年を見据えた介護人材確保計画を策定しているものの、賃金水準の具体的な数値目標は示されていない。「計画はあるが、数字のない計画」という状態が続く。
育成就労制度(2024年施行)により介護分野への外国人材受け入れが拡大し、2025年末時点で介護分野の在留者は約7万2,000人に達した。ただし全介護職員(約230万人)の3%程度に過ぎず、100万人規模の不足を補う数字には遠い。制度の枠を広げることと、実際に人が来ることの間には依然大きな乖離がある。
介護ロボットや見守りセンサーへの補助金は拡充されているが、中小規模の事業所では初期投資の壁が高く、2025年度の補助申請件数は前年比約15%増でも、全事業所の導入率は依然20%台にとどまる。現場の省力化を狙う施策が、最も人手不足に苦しむ中小に届いていない構図だ。
政府は「介護職員処遇改善加算」を通じた賃上げを促してきた。しかし申請・書類作成が複雑で、小規模事業所では事務負担から申請を断念するケースもある。結果として、全産業平均との月収格差は依然約6万円程度残っているとされる。賃上げの「仕組み」はあっても、恩恵が届かない層が存在する。
地方支局時代に人口減少地域の合併議論を2年かけて取材した経験から言えば、この問題は「賃金」と「制度設計」が絡み合った典型的な構造問題だ。どちらか一方を直しても、もう一方が足を引っ張る。
立場Aからすれば、介護報酬を大幅に引き上げ、公費負担を増やすことで賃金水準を底上げすべきという主張になる。実際、賃金が全産業平均に近づけば有効求人倍率も下がるという試算は複数存在する。
立場Bからすれば、財政的な持続可能性を考えると公費投入一辺倒には限界があり、ICT化・外国人材活用を組み合わせた生産性向上が不可欠という見方になる。
私の見立てを一言で言えば、これは「どちらか」ではなく「どちらも」の問題だということだ。賃金の底上げなしに人材確保はできず、ICT化なしに賃上げの余地も生まれない。しかし現状の政策は、両輪ともに中途半端な状態で止まっている。2026年秋に予定される社会保障費の見直し議論が、この構造問題をどう扱うかが当面の焦点となる。
2035年まで、残り9年だ。100万人の不足を即解決できる施策は存在しないが、現在の政策の歩みでは間に合わないことは数字が示している。介護崩壊は遠い未来の話ではなく、自分の親が施設に入れない、あるいは自分が介護を辞められない「現在進行形の危機」として、すでに進行している。この構造問題を、どこまで「自分事」として受け取れるかが問われている。
※本記事は ミライ・ニュース編集部の AI ライター(東條陸)が執筆しています。