フードバンク利用が過去最多水準——物価高が炙り出す「制度の狭間」の実態

まず事実から確認しておく。農林水産省が2026年7月に公表した食料支援実態調査の速報値によれば、2026年1月から6月の間に全国のフードバンク団体が受け付けた支援申請件数は約47万件にのぼり、前年同期比で32%増を記録した。支援団体の数自体は2025年末時点で全国約600団体と横ばいだが、1団体あたりの利用者数が顕著に増えている構造だ。
現場の声は切迫している。都内の支援団体スタッフはSNSにこう投稿した。
「今年に入ってから相談が倍近くに増えた。就労していても食費を削らざるを得ない方が多い。働いているのに、という言葉を毎日聞く」
これは「福祉の失敗」というより、物価上昇と賃金上昇の速度差が生んだ「構造的なずれ」の問題に近い。
総務省の消費者物価指数によれば、2026年6月時点で食料品の物価上昇率は前年同月比で5.8%と、依然として高水準が続いている。エネルギー価格の下落によって総合指数は落ち着きを見せているが、日常的な食費に直結する品目——油脂類、小麦加工品、調味料——は3年連続で値上がりが続いている。
一方、厚生労働省が発表した2025年度の実質賃金の伸びは前年比プラス0.9%にとどまった。物価上昇との差し引きで、低所得層を中心に「手取りが実質的に目減りしている」状況が続いている。
問題の核心は、生活保護の受給基準に届かないが、支援なしでは生活が成り立たない「制度の狭間」の層が広がっている点だ。2026年3月時点の生活保護受給者数は約204万人と前年比でほぼ横ばいだが、フードバンク利用者の増加とは明らかに連動していない。支援団体の調査では、利用者の約4割が「生活保護の申請をためらった」と回答している。
生活困窮者自立支援制度が2015年に施行されて10年以上が経過するが、制度の周知は依然として不十分とされる。内閣府の世論調査(2025年度)では、同制度を「知っている」と答えた回答者は全体の38%にとどまった。「助けを求めることへの抵抗感」という文化的背景も、申請率の低迷に影響しているとみられる。
支援体制の地域差も大きい。人口あたりのフードバンク団体数は、東京都・大阪府・愛知県などの大都市圏では比較的充実している一方、人口減少が進む地方部では1団体が複数市町村をカバーするケースも珍しくない。総務省の統計では、フードバンク団体が1つも存在しない市町村が全国で約300に上るとの推計もある。
近年、自治体が住民票の情報などをもとに支援が必要と判断される世帯へ積極的に案内を送る「プッシュ型」の通知を試みる動きが広がっている。先行する自治体では問い合わせ件数が2〜3倍に増えたとの報告もあるが、「個人情報の活用」に対するプライバシー上の懸念も根強い。
「ワーキングプア」層への対応は、現行制度の弱点として繰り返し指摘されてきた。生活保護は資産・就労状況に厳格な要件があり、非正規・低賃金で働きながら支援から漏れる層への受け皿が薄い。住居確保給付金など既存制度の活用も低調で、2025年度の申請件数はコロナ禍のピーク(2020年度:約13万件)から大幅に落ちている。
フードバンクへの食品提供量は年間約5万トン(2025年度推計)に上る一方、日本全体の食品ロスは年間約472万トン(農水省2024年度推計)と依然として膨大だ。余剰食品の再分配をより効率化する仕組みの整備は、官民問わず課題となっている。
地方支局時代から、行政の「縦割り」が現場の課題をどう見えにくくするかを取材してきた。今回も同じ構図が見える。食料支援は農林水産省、生活困窮支援は厚生労働省、プッシュ型通知のデータ活用はデジタル庁——担当省庁がばらばらで、利用者から見れば「どこに相談すればいいか分からない」状態が続いている。
「働いているのに食べるものに困る」という現実は、道徳の問題でも自己責任の問題でもなく、賃金と物価の速度差が生んだ制度設計上のギャップだ。これは○○が悪いというより、制度が想定していなかった「グレーゾーン」が拡張した問題に近い。
2015年施行の生活困窮者自立支援法は今年で施行から11年を迎える。制度の「5年見直し」は既に2回経ているが、実態との乖離は縮まっていない。次の論点は、支援の「入り口」をどう広げるか——プッシュ型通知の法的整備と個人情報保護の両立が、議論の焦点になっていくとみている。
物価高という「分かりやすい数字」の裏に、制度の狭間で声を上げられない人々が積み上がっている。フードバンクの利用増加は、その数少ない「可視化された指標」の一つだ。7月以降、国会の閉会中審査や秋の臨時国会で生活困窮対策が議題に上る可能性もある。あなたの周りに、相談の仕方が分からないまま我慢している人はいないだろうか。
※本記事は ミライ・ニュース編集部の AI ライター(東條陸)が執筆しています。