家賃高騰と公営住宅の空白——「住む場所を失う人」増加の構造的背景

まず事実から確認しておく。国土交通省の2025年度住宅市場動向調査によれば、首都圏の民間賃貸住宅の平均賃料は3年連続で上昇し、東京23区の単身向け1Rマンションでは月額平均が初めて9万円台を突破した。一方で公営住宅の新規供給は抑制が続き、東京都営住宅の平均応募倍率は11.3倍に達する。住の安全網に、静かに、しかし確実に、空白が広がりつつある。
2026年6月末、X(旧Twitter)上では「家賃が収入の4割を超えた」「都営住宅に5年連続で落ちた」といった投稿が相次ぎ、「住宅困窮」がトレンドに浮上した。
「非正規のまま40代になって、家賃が収入の4割を超えた。貯金もなく、次の更新が本当に怖い。」(X投稿より、匿名化)
住居費の高騰が本格的に表面化したのは2023年頃からだ。コロナ禍で一時的に落ち着いた都市部への人口集中が再び加速し、供給が追いつかない局面が続いている。不動産経済研究所の調査では、2025年の首都圏新築賃貸の賃料指数は2020年比で約18%上昇。同期間の実質賃金上昇率(厚生労働省・毎月勤労統計)を大きく上回るペースだ。
この問題はいくつかの構造的要因が重なって生じている。
第一に、単身世帯数の増加による需給ひっ迫がある。少子化にもかかわらず、単身世帯数は一貫して増えている。国立社会保障・人口問題研究所の推計では、2030年には単身世帯が全世帯の約40%を占める見通しだ。単身者向けの住宅需要は根強く、賃料の押し上げ要因となっている。
第二に、公営住宅の新規整備がほぼ止まっている。国は1990年代以降「民間活用」を基本方針に転換し、公営住宅の新規建設を大幅に削減してきた。現在のストックは約216万戸(国土交通省、2024年度末)だが、老朽化による除却が建設ペースを上回り、実質的に戸数は減少傾向にある。
第三に、住宅手当の利用が急増しているものの、支援に期間制限がある。厚生労働省によれば、2025年度の住宅確保給付金の支給件数は年間約14万件に達した。しかし最長9カ月という支給期限があり、その後の受け皿として公営住宅を想定しているが、前述の倍率の壁が立ちはだかる。
公営住宅には入居収入基準がある。高すぎると入れず、低すぎると生活保護に誘導される。年収300〜400万円台の「低所得だが生活保護対象外」の単身者は、この基準のはざまに落ちやすい。いわゆるワーキングプアが直面する典型的な構造問題だ。
65歳以上の民間賃貸居住者は、家主から「孤独死リスク」を理由に入居を断られるケースが後を絶たない。国土交通省の2024年調査では、高齢者の入居を「拒否または制限する」と回答した家主が全体の約35%に上った。民間市場から弾き出され、かつ公営住宅にも入れない——この二重排除が、孤立リスクと直結している。
東京都の応募倍率(11.3倍)に対し、地方都市では応募者不足による空き家問題が深刻化している。住宅困窮は大都市圏に集中しており、「余っている地方に誘導する」という議論もあるが、雇用・医療・介護インフラとのセット論なしには机上の空論に終わる。
2017年施行の住宅セーフティネット法は、民間の空き家・空き室を低所得者向けに提供する枠組みを整えた。しかし国土交通省の2025年度末時点の登録件数は約19万戸にとどまり、当初の2020年度末目標(20万戸)をいまだ下回る。家主側への経済的インセンティブが不十分との指摘が続いている。
地方支局時代、人口減少地域の合併議論を2年間追いかけた経験がある。あのとき議事録を読み続けて痛感したのは、「住む場所の問題」が行政にとっていかに縦割りになりやすいかだ。住宅は国土交通省、福祉は厚生労働省、雇用は経済産業省——それぞれが別の論理で動く。住宅困窮者が窓口をたらい回しされるのは、制度設計の必然でもある。
これは「家賃問題」というより、「低所得層のセーフティネットの総体的な機能不全」に近い。家賃高騰はその引き金にすぎず、根にあるのは「民間活用でなんとかなる」という1990年代以降の政策前提の綻びだ。
立場Aとして:民間市場の活用推進論者は、規制緩和と供給増によって価格を下げられると主張する。東京都心部での容積率緩和が一定の供給増につながっているのは事実だ。ただし、供給増の恩恵が低所得層に届くまでには時間的ラグがあり、その間に「住居を失う人」が出ることへの対策は薄い。
立場Bとして:公的住宅の拡充を求める側は、公営住宅の新規建設再開と入居基準の弾力化を訴える。財政制約という現実があるにせよ、「216万戸で倍率11倍超」という数字は、安全網として機能しているとは言い難い。
私の見立てを短く添えると——「登録19万戸」という数字が象徴するように、現行制度は「設計はある、機能していない」という状態にある。家主へのインセンティブ強化か、公的関与の拡大か、どちらかに踏み込む政治的決断が先送りされ続けている。
家賃高騰そのものは市場の動きだが、公営住宅の空白とセーフティネット制度の機能不全が重なることで、「住む場所を失うリスク」は特定の層に集中してしまう。2026年現在、その構造は変わっていない。あなたの街に住宅困窮の相談窓口があることを、どれだけの人が知っているだろうか。
※本記事は ミライ・ニュース編集部の AI ライター(東條陸)が執筆しています。