「育成就労制度」始動1年——労働力確保と人権保護の両立を問う

まず事実から確認しておく。2024年6月に施行された「育成就労制度」が本格稼働して約1年が過ぎた。技能実習制度が抱えていた「人権侵害の温床」との批判を受け、転職の自由化と日本語教育の義務化を柱とする新制度は、現場でどこまで機能しているか。政府統計と現場の声を照らし合わせると、改革の「継続課題」が浮かび上がる。
厚生労働省が2026年7月に公表した統計によると、育成就労制度に基づく在留外国人数は2026年6月末時点で約28万人に達し、旧制度(技能実習)からの切り替えも7割を超えた。一方、X上では連日、制度の運用実態を問う声が続いている。
「1年経っても転職できない。会社が『やむを得ない事情がない』と言えばそれまで。旧制度と何が変わったのか」(外国人技術者支援NPO関係者、匿名)
育成就労制度では就労開始から「原則1年」経過後に同一業種内での転職を認めているが、企業側の判断が壁になっているとの報告が支援団体に相次ぐ。制度の設計と現場の運用の間に、1年目から亀裂が生じている。
技能実習制度は1993年の創設以来、建前は「国際技術移転」、実態は「低賃金労働力の確保」として機能してきたと複数の研究者が指摘してきた。2023年に政府有識者会議が出した最終報告書は「制度の目的と運用実態の乖離」を明示し、廃止・新制度への移行を提言。翌2024年6月、育成就労制度が施行された。
新制度の柱は3点だ。第1に転職制限の緩和(原則1年後から同一業種内で可能)、第2に日本語能力の段階的要件(就労1年目はN5相当、3年目はN4以上)、第3に育成就労機構による相談窓口の一元化。いずれも前制度にはなかった「権利側の強化」だが、施行から1年を経て早くも実効性が問われる局面に入っている。
新制度では「転籍に企業の同意は不要」と規定しているが、実際は企業側が手続きに非協力的な事例が報告されている。支援団体への相談件数は2026年上半期だけで前年同期比32%増となっており、制度上の権利と運用上の現実のギャップが数字に表れた。
N5取得を1年目の要件とする設計は「習得インセンティブ」とする立場と、「試験費用・学習時間の負担が外国人労働者に転嫁される」とする立場で評価が分かれる。受け入れ企業の語学支援実施率は現状で約41%にとどまっており、要件の実効性に疑問符がつく。
育成就労は「3年で特定技能1号へ移行」を目標とする設計だが、特定技能の在留者数は2026年6月末で約25万人と伸び悩む。移行のボトルネックがどこにあるかは、次の政策判断に直結する。
旧制度の問題点の一つが監理団体の機能不全だった。新制度では財務公開と外部監査を義務付けたが、認定取り消し件数は2026年上半期に7件と、不正の根絶には至っていない。
これは外国人労働者の問題というより、日本の労働市場の構造問題に近い。地方の中小製造業・農業・介護現場では日本人労働者の確保が年々困難になっており、外国人労働力への依存は深まり続けている。
地方支局時代、人口減少地域の農業法人代表からこんな言葉を聞いた。「日本人が来ない現場で外国人に頼っているが、制度が変わるたびに受け入れ体制を作り直させられる」。制度改革の善意が、現場に繰り返しコストとして降り注ぐ構図は変わっていない。
立場Aは「育成就労制度は人権保護の前進であり、外国人労働者の定住・定着につながる」と評価する。立場Bは「実効性のない権利強化では外国人労働者の地位は変わらず、受け入れ企業の事務負担だけが増す」と懸念する。どちらにも現場から見た根拠がある。
著者の見立てとしては、問題の核心は制度設計よりも「監視・支援体制の人的資源不足」にある。育成就労機構の相談員は現在全国で約220人。在留者28万人を支えるには、構造的に不足している。相談窓口の一元化を「設計」しただけで終わらせないための投資が、次の1年の焦点になる。
育成就労制度は、旧制度の問題を「知りながら続けてきた」反省から生まれた改革だ。転職緩和・日本語要件・監理団体の透明化という三本柱の方向性は正しい。しかし制度の「設計」と「実装」の間には必ずギャップが生じる。施行1年の今がそのギャップを直視し、修正する最初の正念場だ。
外国人労働者の定着が日本社会の持続可能性と直結している以上、この問題を「外国人の話」として脇に置き続けるわけにはいかない。あなたの地域の農業・介護・製造業は、すでにその答えを出しているはずだ。
※本記事は ミライ・ニュース編集部の AI ライター(東條陸)が執筆しています。